MYSTIC RHYTHMS

Heavysphere  その十

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メタル、ハード・ロック、プログレそしてクラシック等について語らせて頂きます  Profile

MORBID ANGEL:ブレスド・アー・ザ・シック
ANGEL WITCH:エンジェル・ウィッチ
EMERSON, LAKE & PALMER:エマーソン、レイク&パーマー
SCORPIONS:ブラックアウト
CERVELLO:メロス
SYMPHONY X:ザ・デヴァイン・ウィングス・オブ・トラジディ
DEEP PURPLE:ディープ・パープル

§索引
§凡例
§ハード・ロックとヘヴィ・メタルの違い

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BLESSED ARE THE SICK/MORBID ANGEL
ブレスド・アー・ザ・シック/モービッド・エンジェル (1991) order

ブレスド・アー・ザ・シック

 前回紹介の、エンジェル・ウィッチ的世界観を、デス・メタル的手法で突き詰め、昇華させたような作品である。ジャン・デルヴィル描くところの「Les Tresors de Satan(サタンの宝)」を用いたジャケットも、「エンジェル・ウィッチ」に印象は近いと言えなくもない。
 「魔王」とも形容される彼らモービッド・エンジェルの、これは2ndアルバム。発散されるオーラは、妖しく、禍々しく、そして美しい。

 「美しい?」そう疑問に思われる方も多いであろう。邪悪・醜悪なるイメージのデス・メタルにこうした形容詞など似つかわしくないと考えられるかもしれない。しかし、美しいのである。「醜」も「美」もイコール化してしまう「悪の華」的な美しさとでも言えるであろうか。
 1stアルバムの様な、全編に渡る疾走感或いは激烈さを求める向きには、些か物足りないかもしれない。「世界で最も売れたデス・メタル・アルバム」との話も聞く3rdアルバムの様なストレートさもなく、些か解り難いかもしれない。が、爆走的ナンバーから鉛を飲み込んだような引き摺り的ナンバーまで緩急織り交ぜ描き上げる魔界的美麗絵巻は、ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)やギュスターヴ・モロー的ダークでミステリアスな絵画世界を好まれる方等には、訴えかける力は強いのではなかろうか。
 速さや激しさよりも、トータル的な重さや暗黒感が目立つ本作には、独立した三曲の小品及びタイトル曲に包含され後半三分の一程を占める曲の、計四曲のインストゥルメタル・ナンバーが、要所に挿入され、それぞれに、荘厳にまた恐ろし気に、また不安を掻き立てる様に、そしてまた美しく奏され、アルバムのサタニズム的な或いはコンセプチュアルなムードを、弥が上にも盛り立てている。
 中でも素晴らしいのが、ギタリストのリチャード・ブルーネル(g)の筆となる(演奏もご本人と思われる)、インストゥルメタル小品「DESOLATE WAYS」。これが、このアルバムの「美」を象徴しているような作品なのである。
 この曲の、余りに真っ当な、透明感を湛えた美しさに、違和感を覚える方もいらっしゃるやもしれない。前曲のエンディングに吹き渡る風音の中から現れる囁くような12弦ギターの哀愁を帯びた調べは、確かに、ブルータルな或いは妖気を帯びた楽曲達の中にあって、唐突な感も無くはない。しかし、この曲あるが故に、アルバムの作品としての深みも、また「闇」の深さも、いや増しているように感じるのだ。
 他の三曲のインストゥルメタル・ナンバーも、パイプ・オルガン、オーケストラ或いはフルートやピアノにより、美しくも妖しく不気味に良き味わいを齎している。だが、「DESOLATE WAYS」はひたすら美しく、そして哀しい。「失楽園」に描かれる、堕天使ルシファー(サタン)の、己が内なる地獄に苦悩する哀しみを、彷彿させるではないか。
 この曲を聴いていると、そのタイトルの如く、荒涼たる道に、ただひとり佇む様な思いに囚われるよ。

 アルバムの雰囲気ばかり語ってきたが、演奏の方は如何か。
 超一流デス・メタル・バンドであるから、全員技術的にハイ・レベルであるのは当然だが、演奏面に於いて、矢張り特筆すべきは、ピート・サンドヴァルのドラムであろう。その切れ味鋭い、粒のそろったブラスト・ビートは凄味が半端ない。フレーズも豊富で、その地を這うような重量感は、音的な重さとはまた異なる形で聴く者を圧倒する。
 メタル・ドラムには不可欠なパワー、スピード、テクニックのみならず、センスそしてカリスマ性等々の諸要素が非常に高次元で調和した稀有な存在である。ドラム演奏に関しては全く無知蒙昧な私ではあるが、ドラム・パートにだけ集中して聴いても、充分に堪能できる。
 また、デヴィッド・ヴィンセント(vo,b)のイヴルなグラウルも、リーダー、トレイ・アザトース(g,key)の織り上げる耽美な世界と相俟ち、この作品が、唯一無二の美しき地獄草子となって結実することに、大いに貢献しているように思う。

 この作品は、渋谷の中古屋さんで、シンフォニーXの3rdアルバムと一緒に購入し、同時期に聴いた(と記憶している)のだが、当初、アメリカから、こうした非常に欧州的ドラマ性を持った作品が生まれるようになったことに対し、少々不思議な思いを持った。がしかし、母国のHR/HM系音楽のパイセンである、キッスやエアロスミスといった如何にもアメリカンなイメージ持ったアーティストの作品も、良く良く聴けば、存外に欧州的な音楽であったことを考えると、左程不思議なことではないのかもしれない。

 2016 4/24

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭
重度:♭♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭♭♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭ ポップ度:♭
〔フロリダ出身。デス・メタル黎明期から活動し、日本では「帝王」或いは「魔王」とも呼ばれる。リーダー、トレイ・アザトースは、セーラームーンやうる星やつらなどの日本アニメ・ファンとしても有名。モーツァルトも好きらしく、本作ライナーには、彼に「私のすべての作品を捧げる」との言葉もある。
因みに、キィーボード担当はCD裏ジャケットではトレイとなっているが、ジャケット内表記ではリチャードとなっている。何方が正しいのかは不明である offical

*ジャン・デルヴィル(1867-1953):ベルギー象徴主義の画家・詩人また教育者。「サタンの宝」はベルギー王立美術館所蔵
*ギュスターヴ・モロー(1826-1898):フランス象徴主義の画家。宗教・神話・伝説的主題で幻想・神秘・耽美な画風の作品を多く残した
*ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)(1450頃-1516):ルネサンス期、フランドルの画家。独自の世界観で怪奇・幻想の作風による多くの宗教的題材の作品を残した
*悪の華:フランスの詩人・評論家、シャルル・ボードレール(1821-1867)唯一の韻文詩集。西洋近代詩の原点とされる。出版時反道徳的・反宗教的と起訴され一部削除となった
*失楽園(Paradise Lost):ジョン・ミルトン(1608-1674)作の叙事詩の大作。主役ではないが、ルシファーが可也主役級の存在感を持っている。エンジェル・ウィッチで紹介したジョン・マーティンもこの作品に多くの挿絵を書いている。一般にルシファーは魔王サタンの天使時代の名とされ同一視される場合も多い
*ブラスト・ビート:シンバル、スネアそしてバス・ドラムを同時に高速で叩く技。人それぞれ微妙にパターンは異なる。デス、ブラック系メタルでは常識的技
*グラウル(growl):辞書的には「(動物が)うなる、(雷などが)とどろく」等の意。ここでは所謂デス・ヴォイスのこと。グロウルとも

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ANGEL WITCH/ANGEL WITCH
エンジェル・ウィッチ/エンジェル・ウィッチ (1980) order

エンジェル・ウィッチ

 エンジェル・ウィッチは、NWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・へヴィ・メタル)の代表的な存在の一つである。現在も活動中ではあるが、本作のみの「一発屋」的扱いと一般的にはなっているのが、残念なバンドだ。このデビュー作、インパクトでは、同年にリリースされたアイアン・メイデンのデビュー作に劣るものではなく、内容的にもなかなかに濃厚さを持った、メタル史に残る名盤である。「伏魔殿に入る堕天使」を使用したジャケットも秀逸。

 本作、今の耳で聴けば、上述のアイアン・メイデン程の斬新さは感じられないし、結構ポップで聴き易かったりもし、良くも悪くも、ブラック・サバスやジューダス・プリースト等の1970年代「ブリティシュ・ハード・ロック」の良き後継、と言った趣である。雰囲気的には、初期ジューダス・プリーストの、「SAD WINGS OF DESTINY(運命の翼)」、「SIN AFTER SIN(背信の門)」辺りからの直結を言えば、ニュアンスは伝わるのではなかろうか。
 インパクトでは負けないとは言い、楽曲構成の起伏の豊かさも、アルバム構成に見るバラエティの豊かさも、同期アイアン・メイデンの1stに比すれば、格の相違は否み難い。だがしかし、バンドの中心人物である、ケヴィン・ヘイボーン(vo,g)に注目し、良く良く聴けば、彼のセンスは、1970年代的サバスやジューダスの亜流に留まるものでは決してない。明らかに新時代の空気を呼吸している。失礼ながら、ベース、ドラムは、前時代的センスに留まっているのだが、ケヴィンのギター及び彼の楽曲(全曲彼の筆になる)は、新たな地平への到達を明らかにしている。軸足は古き世界に置きながらも、踏み込む片足は、未知なる新世界にある。クラシック音楽で例えれば、晩年のシューベルトである。
 畳み掛ける様な緻密なリフ、旋律は内包しつつもノイジーでアグレッシブなソロ・ワーク、サタニズム的禍々しさや暗黒感(ケヴィンの声質がやや明るいのが玉に瑕)、そして全体に漂うアンダーグラウンドな匂い等々、後のメタル界で大きな潮流となる、スレイヤーメガデス、初期メタリカなどを代表とするスラッシュ・メタル、あるいはそこを通り越したデス・メタルに繋がって行く、深く冷たい奥底の流れの様なものを、私としては感じるのだ。
 ヘヴィ・メタル音楽全体への影響力の大きさを言えば、アイアン・メイデンとは比較にはならないほどの差異がある。しかし、ことエクストリーム系メタル(スラッシュ・メタル、デス・メタル、ドゥーム・メタル、ブラック・メタル等)に限って言えば、直接・間接に、エンジェル・ウィッチの影響力はなかなかに大きなものがあるのではなかろうか。メガデスのリーダーであり、初期メタリカのメンバーでもあったデイヴ・ムステイン、そしてデス・ブラックに多大なる影響を齎したとされる、あのセルティック・フロストの中心人物、トム・ガブリエル・ウォリアーも、共に、エンジェル・ウィッチが好きだ(った)とインタヴューで語っておられる。またこれは、私個人周辺の極狭い範囲での話だが、当時、ハードコア(パンク)、或いは少し後にはエクストリーム・メタルの始祖とされるヴェノム(1981年デビュー)、また胎動期のスラッシュ・メタルについて熱く語っていた友人等は、エンジェル・ウィッチについても同様、熱く語っていたと記憶している。
(ポンコツおやじなので記憶に関しては間違いがあるかもしれない。もしそうだったら御免なさい(確かめようは無いけれど))

 上で、「新時代」「新たな地平」等の語句を使ったが、彼ら(と言うかケヴィン)の本質的な部分には、伝統的な「ブリティッシュ・ロック」が横たわっているのが感じられる。湿りを帯びた哀感漂うメロディ、仄かに覗く親しみやすさ、そして重厚感。軸足はしっかりとここにある。CD帯には「エンジェル・ウィッチが告げるスラッシュ・メタルの受胎告知」とあり、言い得て妙であるが、スラッシュ・メタル的尖鋭な音楽は苦手と仰る、「古き良き」世界を好む方にも、比較的馴染み易い作品と思う。

 1980年10月にシングル「ANGEL WITCH」でデビュー、翌11月にアルバム・デビュー(共にBronze Records)した(この数ヶ月前にEMIからシングル「SWEET DENGER」(本作にも収録)を出している)彼らだが、翌年、シングルをリリースした後のクラブ・ツアー中の5月、敢え無く解散してしまう。プロ・バンドとしては、僅か一年ほどの命であった。
 解散は、音楽的対立や人間関係の悪化などが複合的に原因した結果だそうであるが、当時バンドのマネージャーを務めたのは、素人さんであるケヴィンのお父上、ケン・ヘイボーン氏で、その辺りも、バンドが長続きできなかったことに影響したとされている。(CD解説参考)

 2016 4/6

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭♭♭ 技巧度:♭♭♭ 旋律度:♭♭♭ ポップ度:♭♭
〔ケヴィンが属していたルシファー(サタンの別名)というバンドが元となり1977年にロンドンで結成。1981年の解散後、再結成・再解散を繰り返し、1985・1986年にスタジオ・アルバムをリリース。2012年には再びジョン・マーティンの作品(「最後の審判」)をジャケットに使用し、新作を発表している offical

*ジョン・マーティン(1789-1854):イギリス、ロマン派の画家。「伏魔殿に入る堕天使(The Fallen Angels Entering Pandemonium)」はジョン・ミルトンの「失楽園(Paradise Lost)」をテーマとして1841年に描かれたらしいが、本作所蔵のテイト・ギャラリーのHPでは、「ジョン・マーティン作とされた」となっている
*NWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal):1970年代末頃から興ったHR/HMの一大ムーヴメント。この後「ヘヴィ・メタル」の語が一般化した
*ブリティッシュ・ハード・ロック:ヘヴィ・メタルと言う語が一般化する以前、この言葉が、後の「ヘヴィ・メタル」に近いニュアンスで使われていた
*晩年のシューベルト(1797-1828):彼の生涯は古典派のベートーヴェンの後半生とほぼ重なっているが、晩年の作品は後に続くロマン派の世界を紡ぎ出している。晩年と言っても僅か三十一歳で世を去った彼なので可也若いが。作品的には、交響曲第8番 D944(1825-1826)、弦楽四重奏曲第14番 D810(1824)、二つの即興曲集 D899, D935(1827)、ピアノ・ソナタ第21番 D960(1828)などなど
*エクストリーム系メタル:メタルの中でもよりアグレッシブ、よりヘヴィ、よりダークなサブジャンル。1980年代半ば以降隆盛を見る
*ハードコア:ハードコア・パンク。より過激でより荒々しいパンク・ロックの一形態。スラッシュ・メタルはヘヴィ・メタルとハードコアとの融合の中から誕生したとされる
*インタヴュー:デイヴはヴィデオ「Cliff 'En All」中でフェイヴァリット・アーティストはと問われ真っ先に「エンジェル・ウィッチ」と答えている。トムは2010年6月のCDjournal「暗黒神!サード・カミング」中で前身バンドの頃好んで聴いていたバンドの中にエンジェル・ウィッチを挙げている

EMERSON, LAKE & PALMER/EMERSON, LAKE & PALMER
エマーソン、レイク&パーマー/エマーソン、レイク&パーマー (1970) order

エマーソン、レイク&パーマー

 エマーソン、レイク&パーマー(以下ELP)の中心として、プログレッシブ・ロックの一時代を築いたミュージシャンの一人、キース・エマーソンが、カリフォルニア、サンタ・モニカの自宅で亡くなっているのが、3月11日午前1時半頃、パートナーであるカワグチ・マリさんにより発見された。享年71。拳銃による自死と、ロサンゼル検視局によって判断されている。報告書には、心臓病と鬱病を患っていたと、記されているとのこと。
 彼は右手に、フォーカル・ジストニアと呼ばれる神経性の障害を抱えていた。万全なプレイが困難であることが、彼を憂鬱に、ナーヴァスに、不安にさせていたと、上記のカワグチ・マリさんは、英「The Mail on Sunday」紙に語っておられる。

 クラシックとジャズと、そしてロックとが混然となった、その激しさの中に気品を備えたキースのプレイが、私は好きである。最もリスペクトするアーティストの一人であった。

 キースの名を聞いても、知らない方が多いと思われるが、もし興味をお持ちなら、ELPのデビュー作、この「エマーソン、レイク&パーマー」アルバムの冒頭を飾る「THE BARBARIAN」(邦題「未開人」)を聴いて頂きたい。ベーラ・バルトーク(1881-1945)が30歳の時に書いた、ピアノ独奏曲「アレグロ・バルバロ」(野蛮なアレグロ)を、彼らがロック音楽としてアレンジしたものだ。短い作品であり、また自作曲でもないが、上記の様な、キースの特質が凝縮されたハモンド・オルガンとピアノのプレイを、ベース、ドラムと三位一体となったバンド・サウンドで聴くことが出来る。
 また若し、キースの独擅場的演奏をお求めであれば、「THE THREE FATES」(運命の3人の女神)が至適だ。人間の運命の糸を、紡ぐクロト(Clotho)、割り当てるラケシス(Lachesis)、そして断ち切るアトロポス(Atropos)、このギリシャ神話の運命の三女神を描いた三部構成の楽曲。ハモンド・オルガンとはまた味わいの異なる荘厳なパイプ・オルガンと、空気が張り詰めるような即興的ピアニズムとを堪能できるであろう。終盤、二台のピアノとドラムによるトリオ、「アトロポス」で聴かれるプレイは、ヴラディーミル・ホロヴィッツを彷彿させる凄味の漂う、特筆すべき素晴らしいピアノである。
 アルバムは、後の「PICTURES AT AN EXHIBITION(展覧会の絵)」「TARKUS(タルカス)」そして「BRAIN SALAD SURGERY(恐怖の頭脳改革)」など、彼らの代表作とされるもの達に比すれば、やや地味な印象は否めない。キースがロック音楽に先駆的に導入したシンセサイザーの使用も控えめであり、楽曲にもアレンジにもプレーンな或いは粗削りな風情が感じられる。しかし、溢れかえる感性とエナジーの放散は凄まじく、瑞々しさ活きの良さが、彼らの作品中で最も頑強なサウンドに隙間なく押し詰められている。キース以外のメンバーの主導作品も収められ、独裁性からは決して生みだされない、多様性の豊かさも示されている。
 Nic Dartnell描く神秘的ジャケットも美しい本作。そのリリースは、キース・エマーソン26歳、グレッグ・レイク(vo,b,g)23歳、そしてカール・パーマー(ds)20歳の、1970年であった。

 キースは若い頃、同時代・同世代のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスやリッチー・ブラックモア張りの派手なステージ・アクション、パフォーマンスでも有名であった。オルガンの鍵盤にナイフ(日本公演では日本刀)を突き立て音を鳴り放しにする、或いはオルガンを揺すり、倒し、またステージに叩き付け、挙句には火を放つ、などなど。結構な「バーバリアン」振りである。リアルタイムでは知らない、こうした勇ましい話を聞くのも、好きであった。
 彼は、プレイでもパフォーマンスでも、ロック・キィボードの歴史を変えた、或いは作り上げた、巨星の一つである。

 キースのウェブサイトには、彼が亡くなったのは、3月10日から11日にかけての夜の間と記されている(...died during the night of 10th/11th March 2016...)。これはカリフォルニア時間(太平洋時間)であろうから、時差17時間の日本では、およそ3月11日の夕から夜にかけてのこととなる。
 東日本大震災に際し、被災者へ向け曲(「THE LAND OF RISING SUN」)を捧げてくれたキース。地上を去る日がこの日であったことは、偶然であろうと思うが、何か因縁めいたものを求めたくなる部分もある。

 絶望がキースに、二度と戻ることのない道を選ばせてしまったが、彼の作品とプレイは、人類に滅亡が訪れるまでは永遠である。感謝の思いしかない。

 R.I.P

 2016 3/20

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭
重度:♭♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭♭ 技巧度:♭♭♭♭♭ 旋律度:♭♭ ポップ度:♭♭
〔キースは、1944年イングランド西北部ランカシャー出身。少年時代にクラシックを学びジャズも演奏していた。この事が彼のプレイ・スタイルに大きく影響を及ぼすこととなる。バンドは1980年に解散したが、1990年代に再結成・再解散(活動休止)。
1stアルバムをここに挙げておいて言うのもなんだが、本作や上に挙げた代表作とされる三作は、ビギナーの方には少々重すぎるかもしれない。繊細で抒情的な3rdアルバム「TRILOGY(トリロジー)」が比較的聴き易く初ELPとしては相応しいかもしれない。あくまで個人的見解だが キース official ELP official

*アレグロ・バルバロ:1911年作曲、1918年出版。民俗的要素や打楽器的演奏などが特徴的。題名はフランスで「野蛮」と評されたことに由来するとされる。パブリック・ドメインとなっているバルトーク自身の演奏を聴くことが出来る。作曲者クレジットの問題でバンドと遺族との間で揉めたらしい。
この曲以外にも「KNIFE EDGE」ではレオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)の「シンフォニエッタ」及びJ.S.バッハ(1685-1750)の「フランス組曲」第1番アルマンドなど、クラシックの楽曲が使用されている
*運命の3人の女神:Moirai(モイライ)と呼ばれる三姉妹。曲構成は以下。
Clotho(オルガン):1分48秒
Lachesis(ピアノ・ソロ):2分43秒
Atropos(ピアノ・トリオ):3分15秒
パイプ・オルガンは、ロンドン、ロイヤル・フェステイヴァル・ホールでの演奏
*ハモンド・オルガン:アメリカのローレンス・ハモンド(1895-1973)により1929年完成(1934年特許)された電気オルガン。シンセサイザーが一般化する以前ポピュラー音楽界では最も多用された鍵盤楽器である。現在は鈴木楽器製作所が商標権を有し製造・販売を行っている
*フォーカル・ジストニア:局所性ジストニアとも。筋肉が不随意に収縮して生じる運動障害であるジストニアの内、手や指など局所的に起こるもの。原因不明。音楽家に多い
*時差:3月13日から11月6日まではカリフォルニアは太平洋夏時間となり時差は16時間となる
*「THE LAND OF RISING SUN」:You Tubeで聴くことが出来る。震災のニュースを見て間もなく作曲・録音されたとある
(参考:billbord japan、BARKS、NME Japan、ナリナリドットコム他)

BLACKOUT/SCORPIONS
ブラックアウト/スコーピオンズ (1982) order

ブラックアウト

 HR/HMが世界のトレンドとなりつつあった頃リリースされ、全米TOP10に入り、彼らのワールド・ワイドな成功を決定づけた作品。と同時に、ジューダス・プリーストの「スクリーミング・フォー・ヴェンジェンス(1982)」、アイアン・メイデンの「ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビースト(1982)」などと共に、HR/HMをポピュラー・ミュージック界のメインストリームへと押し上げる上で、大きな力となった作品の一つでもある。ハード・ナンバーから哀愁のバラードまでバラエティに富んだ楽曲をそろえた、HR/HMビギナーにもお薦めの名盤だ。

 この作品でまず耳に訴えてくるのは、マティアス・ヤプスのギターである。アルバム・オープニングの、耳が切れそうなルドルフ・シェンカーの鋭いカッティングに続き雪崩れ込んでくるマティアスのギターにまずノックアウトされ、そして、聴き進むうち、マイケル・シェンカーとウルリッヒ・ロート(現ウリ・ジョン・ロート)と言う前任スーパー・ギタリスト達の幻影を払拭したかの様に、ソロにバッキングにと縦横に活き活きと弾き捲くる彼のギターに釘付けとなった。
 同じようにマティアスのプレイにぶっ飛んだ人は当時多く、彼がよく愛用していた白いボディに黒のストライプ(逆のパターンもある)の入った彼のギブソン「エクスプローラー」を模したギターが早速作られたりもした(現在もある)。
 この作品は、AC/DCのマルコム・ヤングと双璧をなすサイド・ギター職人ルドルフのバッキング(伴奏)も切れ味素晴らしく、声帯の病(このため本作のレコーディングは一時中断した)から復帰したクラウス・マイネの歌唱も歌える喜びに満ち満ちたように伸びやかでまた以前にも増し艶っぽくまた深く、フランシス・ブッフホルツの動きと安定の良くバランスしたベースも見事、そして作詞にも名を連ねるハーマン・ラレベルのドラムはキレやスピード感は今一つ乍ら、アンサンブルに重きを置いた歌心あるプレイで楽曲に味わいを齎しているなどなど、メンバー皆が非常に高いレヴェルで共鳴し合っている。しかし、その辺りの事が私に理解できるようになってきたのは大分後のことであって、当時は兎にも角にも、マティアスのギター、これであった。

 マティアスは、独自の世界を持ち込みすぎて浮いてしまった(バンドの中でね)ウルリッヒが脱退したのち、本作の前前作「ラブ・ドライヴ(1979)」より参加。アルバムは、以前までの作品に濃厚であった欧州的ウエットな暗黒性と、アメリカンとも呼べる乾いた陽性スタイルという新機軸が上手く融合した佳作であったが、ゲスト参加(三曲)したマイケルの存在感・光芒が余りに強く、完全に陰に隠れてしまっていた。次作「アニマル・マグネティズム(1980)」でも、リスナー或いはギター小僧たちの耳を惹くところまで行ってはいなかった。
 しかし、本作である。
 このアルバムか或いは次作の時かはもう忘却の彼方だが、雑誌インタビューでマティアスは、彼のプレイの飛躍的な向上に関しての質問に、ブリッジに手を置かないピッキングを身に付けた、と答えていたように記憶する(間違えていたら御免なさい)。
 現在の事情は良く分からないが、当時は、ロック系のギタリストは、ブリッジの上に手を乗せ固定してピッキングするのが一般であった。このスタイルだとピッキングが安定しまた低音弦をきれいにミュートできる利点がある。が、反面、変化に乏しい単調な音色となるし(ブリッジ寄りでは硬い音しか出ない)、何より速い動き大きな動きがし難くなるのだ。これは安定と引き換えに致し方のないことではあるが、プレイの幅を狭めてしまうこととなる。
 大きく音を歪ませるロック・ギターの場合、ブリッジから手を浮かせるピッキング・スタイルは、弾いていない低音弦が鳴らないようミュートすることが難しくなるので、一般的ではなかったのだが、マティアスはそこを上手くクリアできた様である。私も当時、このスタイルを練習したのだが、まったく出来ませなんだ。
 ついでだが、この時か別の時かはこれまた記憶が定かではないが、ルドルフが矢張り雑誌インタビューで、同じ名サイド・ギタリスト、AC/DCのマルコムについて尋ねられ、良いギタリストだが最近は目立ち過ぎで良くない、的なことを仰っていた。その記事を読みながら私は、いやいやあなた最近結構ソロ弾いてるじゃん、と心の中でツッコんだ記憶がある。このアルバムでも、三曲でソロをお弾きになっている。これが上手くはないが、結構味があってよかったりするのだが。
 ま、ルドルフの話は取り敢えず置いといて、本作第6曲(アナログ盤B面トップ)「ダイナマイト」での、マティアスのソロを聴いてほしい。激しくスリルに満ち、そしてテクニカルなそのプレイは、当アルバム最高のものであると共に、HR/HMギターの醍醐味を見事に体現したものであるとも言える。是非に味わって頂きたい(ちょいダサなタイトルはご愛敬)。

 ライヴ・バンドとして著名であった彼らのパフォーマンスは、私は一度だけ経験している。このアルバムのリリースに伴う来日公演であったが、そのライヴのオープニングが印象的であった。
 ・・・スモークの流れる暗転したステージ上にドラム台がせり上がり、その中にギターを構えたメンバーのシルエットが浮かぶ。そして「ブラックアウト」のイントロのカッティングが響き、マティアスのアーム・ダウンと共にメンバーたちが飛び出してくる・・・。なんとまぁカッコイイオープニングであったであろう。
 その後の内容も素晴らしかった。演奏とはまた別に、飛んだり跳ねたり組体操したりフライングVをぶん回したりと、惜しげもないエナジー放出。これでもかのサーヴィス精神ギガ盛りの狂熱的ライヴは、私の中では、最も強く記憶に残るライヴ経験である。

 (上記中の思い出話的な部分は、時間的前後関係や詳細部分など記憶違い・勘違い等あるやもしれません。如何せん遥か大昔の事ゆえ、お許し願いたい。ライヴの描写もあくまで私の記憶のなかにあるものに基づくため、事実とは多少異なるかもしれない。そこもご了承を頂きたい)

 2016 1/14

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お気に入り度:♭♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭♭ 暗度:♭♭♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭♭♭ ポップ度:♭♭♭♭
〔日本盤CDで聴くと「チャイナ・ホワイト」でのルドルフのソロが、アナログ盤とは異なるテイクとなっている。欧州盤と米国盤の違いの様である。CD盤の方が不気味さはよく出ている。因みに「チャイナ・ホワイト」とは医療用に用いられる合成麻薬フェンタニルの乱用薬物としての俗称である。
なお、今年はバンド結成五十周年。何気にご長寿バンドである official

*メインストリームへと押し上げる・・・:この頃は、現在に於いてもHR/HMを代表する作品とされているような名盤が多くリリースされている
1980年 ブラック・サバス「ヘヴン・アンド・ヘル」、オジー・オズボーン「ブリザード・オブ・オズ」、マイケル・シェンカー・グループ「ザ・マイケル・シェンカー・グループ」、AC/DC「バック・イン・ブラック
1981年 ラッシュ「ムーヴィング・ピクチャーズ」、モーターヘッド「ノー・スリープ・ティル・ハマースミス」
1982年 ジューダス・プリースト「スクリーミング・フォー・ヴェンジェンス」、アイアン・メイデン「ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビースト、スコーピオンズ「ブラックアウト」、アクセプト「レストレス&ワイルド
1983年 デフ・レパード「パイロメニア」、ディオ「ホーリー・ダイヴァー」、クワイエット・ライオット「メタル・ヘルス」(ヘヴィ・メタルとして史上初の全米1位とされる)
*ブリッジ:エレクトリック・ギターの場合、弦の振動長や位置を一定に保つための金属パーツ。弦の右手側(左利き用では左手側の)末端部分
*アーム・ダウン:ヴィヴラート・ユニット(マティアスの場合改造ストラトキャスターに搭載のフロイド・ローズ社製)のアームをボディ側に押し下げ弦の音程を下げる奏法
*エクスプローラー、フライングV:共に1958年に発売された米ギブソン社製のエレクトリック・ギター。変形ギターの代表的存在。何方も奇抜すぎて生産中止となるが後に復活

MELOS/CERVELLO
メロス/チェルヴェッロ (1973) order

メロス

 一般には余りお馴染みではないと思うが、イタリアのバンド(五人編成)である。出身は長靴の足首辺り、東方にヴェスヴィオ山を望む街ナポリ。名は、チェルベッロ。その名だけ聞くと、イタリアンな料理のようでもあるが、名の意は「脳」。うーん、ジャケットの缶詰の中身は確かに一寸、脳みそっぽくも見えるか(明太子のようにも見える)。
 アルバム・タイトルは、ギリシャ語で「旋律」、「歌」或いはギリシャ古典期(紀元前四〜五世紀頃)までの抒情詩を指す語。アルバムのコンセプトはギリシャ神話に関わっているらしい。詳細は不明であるのだが、荒ぶる音の乱舞は、キリスト教に駆逐される以前の、古来の「邪教」的世界が想起され、「春の祭典」のプログレ版のようである。
 各曲題名は以下の通り(括弧内は直訳)。
・Canto del Capro(雄山羊の歌)
・Trittico(三部作)
・Euterpe(エウテルペ(ギリシャ神話で抒情詩を司る女神))
・Scinisione (T.R.M.)(不明)
・Melos(韻律)
・Galassia(銀河)
・Affresco(フレスコ画)

 本作は、チェルベッロの唯一の作品。一般にプログレッシブ・ロックとカテゴライズされるが、プレイはジャズ・ロック的な要素も強く、サウンドは大分ハード&ヘヴィ。リリカルなヴォーカルとインプロヴィゼイショナルなギターやエレクトリック・サックスとの交錯が描くコントラストが耳を引き、極初期キング・クリムゾングレッグ・レイクの頃など)好きの方等にはアピールするかもしれない。
 歌は全編イタリア語。この言語の特性であるのか、或いはヴォーカル(ジャンルイジ・ディ・フランコ(R.I.P))の声質の所為なのか、はたまたナポリの風土がそうさせるのか、何処か陽気で明るい。英国産プログレ・バンドの様な暗さは無い。ただ、明るいとは言っても、健康的で屈託のない明るさでは全くない。爽快感の様なものとも、全く無縁である。何かしらマッドなにほいが漂うのだ。陽気が狂気に共鳴し、ちょっと薄気味の悪さを醸している。イタリアらしい「歌」も感じられるが、同国出身のパガニーニのそれと同様、デモーニッシュである。時折奏でられるフルート(五人中三人又は四人が担当)がまた、妙に怪しげだ。
 全体に粗削りで、混沌が支配的。完成度などと言うものは、端から念頭になく、ノリと勢いで創っちゃいました感が漂う(必ずしも完成度が低いという事ではない)。その辺りが、上記の「マッドなにほい」と相俟って、本作の面白さ、大きな魅力の一つとなっているように私は思うのだが、どうであろうか。
 何れにしろ、リリースから数十年を経てもなお、こうして聴き継がれ、プレスもされ続けているのである。何か、持っているのであろう、このアルバム。その「何か」が何なのかは、私の浅薄な耳では聴きとることは叶わないが。

 ジャケットの缶詰のラヴェルでは、お皿の上に原子雲が立ち昇り、おねいさんが驚愕している。アルバム内容共々に、とってもサイケである。

 2015 12/5

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭♭ 暗度:♭♭♭ 技巧度:♭♭♭ 旋律度:♭♭♭♭ ポップ度:♭♭
〔イタリアン・プログレの代表的バンドの一つ、オザンナ(1971-1979, 1999-)のダニーロ・ルスティチの弟君コラード・ルスティチ(g)(当時十六歳。フルート、ヴィブラフォンも担当)を中心としたバンド。当アルバムはプロデュースなどオザンナの協力の元に作成された。作詞・作曲はバンド外のアーティストによる(作詞:Ermanno Parazzini、作曲:Gian Pietro Marazza)〕

*サイケ:サイケデリックの略。幻覚剤による精神状態、またそれを想起させるさま。こうしたサイケなアートが1960年代から1970年代にとても流行ったのだ
*春の祭典:ストラヴィンスキーのバレエ音楽(1913年初演)。当時賛否両論の一大騒動をもたらした歴史的傑作である。詳細はこちら
*ヴェスヴィオ山:標高1,281mの複合成層火山。79年、噴火による火砕流でポンペイを壊滅させたことで有名

THE DIVINE WINGS OF TRAGEDY/SYMPHONY X
ザ・ディヴァイン・ウィングス・オブ・トラジディ/シンフォニー・エックス (1996) order

ザ・ディヴァイン・ウィングス・オブ・トラジディ

 当時メタル界を席巻していたパンテラ的モダンなヘヴィネスと、ディープ・パープル以来連綿と続く伝統的クラシカル風味と言う、一聴相容れない要素が見事に同化・融合した、テクニカル系ネオクラシカル・メタルの名作。彼らシンフォニーXの3rdアルバムである。
 母国のアメリカ合衆国では、リリースすらされなかったらしいが、さもありなんの、騎士やファラオやメドゥーサの登場するファンタジック・ワールドも描き込む楽曲は、神秘な帳に包まれ、これでもかの欧州的抒情・哀愁とドラマがてんこ盛り。全体に体現される、「交響曲」的スケール感・ヘヴィ感も見事である。

 中心人物マイケル・ロメオ(g)筆頭に、演奏陣全員(他はキィーボード、ベース、ドラム)テクニカルで、プログレッシブ・ロック的変拍子・転調も難なくこなす。またプログレ・テクニカル系メタルにありがちな線の細さや、複雑な曲展開での無理や強引さ(そこが面白かったりもするのだが)も余り感じられない。親しみやすい旋律も豊かである。なかなかに有り難い存在なのである。
 ただ、中音域のスロー・パートなどは秀逸だが、高音域・低音域が苦しそうで、怒鳴っているように聴こえてしまうヴォーカルが、少々馴染みにくいのが、個人的には正直なところではある。ロニー・ジェムス・ディオトニー・マーティンを彷彿させるパワフルな歌唱は出色なのだが。

 上に母国でアルバムのリリースが無かったと書いたが、当時、地元ニュー・ジャージーではクラブでのライヴもなかなかままならなかったそうだ。唯その辺り、彼らのように楽曲をしっかり設計して行く様な音楽性のバンドとしては、曲作りに十分な時間をかけることができる状況は、プラスに働かせることもできた様である(曲作りには約八ヶ月かけたとCD解説書にはある)。
 実際、紆余曲折な展開とストレートさ、またヘヴィ志向とクラシカル志向とが上手くバランスした楽曲は良く練れているように思う。オペラテッィクなコーラス、メタルらしい突進力、そして重く緻密なリフ、高速フレーズのギターやキィボード、またそれを支えるベース(タッピングもこなす)とドラム(音数が多い割に重い)を加えたアンサンブル等、曲も演奏もクォリティはとても高いと思う。

 そんな、彼らの最高作に押されることも多い本作は、捨て曲もなく、粒ぞろいの楽曲ばかりではあるが、白眉は矢張り、第8曲目に森然と構える「ザ・ディヴァイン・ウィングス・オブ・トラジディ」であろう。プログレッシブ・ロック黄金期の、イエスピンク・フロイドELP張りの20分超の大曲(七つのパートに分かれている)であるが、バッハ(「ミサ曲ロ短調 BWV232」ではないかと思うのだが・・・知ったかだったら御免なさい)やホルスト(「惑星」中の火星)からの引用も効果的で、飽きさせない構成力と破綻の無い高度な演奏力は天晴れ。聴く方によっては、長すぎ・・・と敬遠されるであろうけれど、クラシック好きプログレ好きにとっては、堪らんのである。
 くどい程にドラマティックな音楽が好きという方には、このアルバム・タイトル・ナンバー一曲だけでも、聴く価値は充分にあると思う。

 2015 11/22

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭
重度:♭♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭♭♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭♭♭ ポップ度:♭♭♭
〔彼らの根はネオクラシカル・メタル(クラシック音楽的要素を多く取り入れたメタル)にあると思うのだが、プログレッシブ・メタル(プログレッシブ・ロック的要素を多く取り入れたメタル)色も強い。そう言う面ではドリーム・シアターと系統的には近いと思うが、彼らよりは大分「普通」のメタルであるので、聴き易いと言えるかもしれない official

*タッピング:利き手の指を指板上に移動させ非利き手の指と組合せ弦を叩いたり引っ掛けたりして鳴らす奏法。高度なテクである(私はごく簡単なのしか出来ましぇん)
*ミサ曲ロ短調:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)が最晩年に完成させた傑作。全27曲からなる。ミサ曲はカトリック教会で使用されるミサ典礼楽曲である(バッハはプロテスタント(ルター派)である)。本作で借用されているのは第21曲「Et expecto resurrectionem 死者のよみがえりと来世の生命を待ち望む」ではなかろうかと思うのだが、アレンジされているし歌詞も異なるので確言は出来ない。でもイキフンは似ている

DEEP PURPLE/DEEP PURPLE
ディープ・パープル/ディープ・パープル (1969) order

ディープ・パープルIII

 HR/HM好きの間では、第一期のディープ・パープル(以下パープル)は聴かんでも宜しい、的なイキフンがあるような感じがするが、いやいや、聴いた方がいいですよ、少なくもパープルが好きならば。
 確かに、音楽的に第二期以降のパープルにクオリティで及ばない面は否めないし、スタイル自体大分異にもするので、強いて勧めはしない。が、私としては、この一種独特な匂いをもった第一期パープル、聴いて損はないと思うのだ。当時まだ、ギブソンES-335を弾いていた、後のHR/HM界のカリスマ、リッチー・ブラックモアの、やがて「狂気」と形容されることとなるギター・プレイのその萌芽・片鱗も其処彼処(そこかしこ)に伺え、パープルというバンドの、延いてはHR/HMの歴史・変遷が感じられ、興味深いとも思う。

 第一期パープルは、レッド・ツェッペリンの成功に刺激され、ハード志向及びアメリカ志向を強めた後のパープルとは異なり、如何にも英国的或いは欧州的な「暗さ」を湛えている。この「暗さ」が、上に一種独特の匂いと書いたものの本体である。それは、仄かな湿りを帯びた、そのバンド名の如く、深い紫に染まった霧を纏うたような、当時の彼ら固有のものである。
 この頃、パープルの音楽はハード・ロックとは呼ばれず、アート・ロックと呼ばれていた。
 アート・ロックとは、シングル盤を如何に売るかではなく、自らの芸術的欲求を満たす事に軸足を置いた、アルバム指向のアーティスト達や作品を指す為に1960年代後半当時用いられていた言葉である。この言葉で示された音楽は、このすぐ後に隆盛を迎えるプログレッシブ・ロックとは、多少系譜を異にすると思うが、ベクトルは近いと言えるのではなかろうか。
 で、今回紹介するこの作品は、1969年のリリース当時、日本では「素晴らしきアート・ロックの世界」と言う邦題(現在は「ディープ・パープルIII」)が付けられていた、まさにアート・ロックを代表する如き一枚である。
 アルバム・ジャケットには、ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)(1450?-1516)の三枚パネルの大作(220×389cm)「愉楽(快楽)の園」(下画像)の右翼パネルの一部がモノクロームで使用されている。地獄を描いたこの絵の中でメンバーは、拷問具と化したリュートやハープ等の楽器の間で、物珍し気に、周囲に繰り広げられる、壮絶とも滑稽ともとれる地獄の光景を眺めている。最上部に小さく「Deep Purple」と赤(或いは紫)で書かれたのみで、ボッシュ・ファンの私は、なかなか秀逸なジャケと思っている。当時の彼らの音楽性を上手く表現しているようにも思う。
 このアルバムも含め第一期の頃のバンドの顔は、音楽的面を含めたリーダーであるジョン・ロード(key)でもなく、後にバンドの看板となるリッチー・ブラックモア(g)でもなく、ヴォーカリストのロッド・エヴァンスである。まったくの独断だが、アメリカで其れなりに(失礼な表現だが)売れたのも、彼の甘く深い歌声あってこその様に思う。
 ただ、このロッド、情感豊かな非常に良いヴォーカリストであることは間違えないのであるが、声がポップスなのだ。本作中の泣きのバラード、ドノヴァンのカヴァーである「ラレーニャ」を聴いて頂けば解ってもらえると思うが、こうした楽曲にドはまりするような歌声なのである。バンドが選んだハード路線には、彼の美声は明らかに向いていない。
 本作リリース前から不和が噂されていたロッドは、バンド脱退後渡米し、現地ミュージシャン、アイアン・バタフライの元メンバー(g, b)及び名ドラマー、ボビー・コールドウェルと共にキャプテン・ビヨンドを結成。アート・ロックが昇華したような名作1stアルバム(1972)を産むこととなる。

 「Shades of Deep Purple」(1968)、「The Book of Taliesyn」(1968)そしてこの「Deep Purple」という第一期パープル三作の中で、本作が最も暗さが顕著である。そして最も重い(雰囲気が)。ジョンのクラシカル志向とリッチーのハード志向が微妙な平衡を保った、プログレ系(風?)ハード・ロックの佳作である。「四月は残酷な季節・・・」と歌う、室内管弦楽を導入した大作ラスト・ナンバー「April」は、本作(延いては第一期)を象徴する如き楽曲。是非聴いて頂きたい。
 だがしかし、この紫の光芒を放つ美しも儚げな平衡はあまりに脆く、バンドは本作リリース後、ニック・シンパー(b)とロッド・エヴァンス(vo)を解雇し、第一期は敢え無く終焉となる。ニックを解雇した理由を、良いベーシストだったがと前置きし「彼はオールド・スタイルのロックン・ロール・プレイヤーだった」からと、ジョンは語っている。ロッドも上述の様にハードなスタイルではなく、二人ともに、グループの進む方向については来られないと判断したということのようだ(CD解説書参考)。
 そしてバンドは、イアン・ギランと言う不世出なヴォーカリストと、「器用」なベーシスト、ロジャー・グローヴァー(共に元エピソード・シックス)を新メンバーに迎え、リッチー主導のハード路線へと大転換。「DEEP PURPLE IN ROCK」をリリースし、ワールド・ワイドな成功へ、そして頂点へと、火の玉の如くに翔け昇って行くのである。

 2015 11/12

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭♭♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭♭ ポップ度:♭♭♭♭
〔ディープ・パープルと言えば第二期ばかりが取り沙汰されがちである。私も最もこの時期を愛するが、第一期もなかなかのクオリティである。一寸暗いが、第二期には無いポップ感も持ち合わせているので、重いのが苦手な方にもそこそこいけるのではなかろうか official

*アート・ロック:クリーム、ジミ・ヘンドリックス、ジェファーソン・エアプレイン、フランク・ザッパ、ヴァニラ・ファッジ、アイアン・バタフライそして第一期パープルなど。日本のレコード会社が使用した言葉・カテゴリらしい。同じ頃、ニュー・ロックと言う語も近いニュアンスで使われたらしい
*愉楽(快楽)の園:ルネサンス期フランドルの画家、ヒエロニムス・ボッシュ(ボス)の描いた代表的作品であり歴史的傑作祭壇画。1490年頃から1515年頃に描かれたと考えられている。左翼画は楽園、中央画は現世、右翼画は地獄をそれぞれ表すとされている。基本的には宗教画であるが、真のテーマは今も謎とされる(下画像)
*リュート(Lute):ルネサンス期からバロック期(16-17世紀)にヨーロッパで使われたギターやマンドリンに似たアラビア起源とされる撥弦楽器。ヘッドがほぼ90度後方に曲がっている
*アメリカで其れなり売れる・・・:デビュー・シングル「ハッシュ」(カヴァー曲)は全米四位、2ndアルバムは全米四十位まで上がった
*ドノヴァン:ドノヴァン・フィリップ・レイッチ。スコットランドのフォーク系ミュージシャン。1960年代から活躍しロックの殿堂入りもしている
*室内管弦楽:フルート(2)、オーボエ(2)、クラリネット(1)、イングリッシュ・ホルン(1)、ヴァイオリン(2)、ヴィオラ(1)、チェロ(2)
*エピソード・シックス:イギリスのバンド。イアンとロジャーの脱退した後、当時のメンバー三人によりクォーターマスが結成される。因みに上記ニック・シンパーは1994年にクォーターマスIIに参加している

愉楽の園
プラド美術館蔵(パブリックドメイン)

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