PRESENCE
Silvery(銀の月)まどいきて
刹那
昼の月白い掌(て)
ヘリオトロープの想念――――――――――――――――――――――――――――――
PRESENCE
真夜中の街道 ひとり歩道の上…
ヘッドライトに照らされ 僕の影が 家々の塀にうつってはきえてゆく…
どうやら僕は存在しているらしい…
実体をもって光をさえぎり 影をつくっているようだ…
……
今日は友達の結婚式だった…
幾人もの友達と再会した… 何年かぶりで見る顔 顔 顔…
変ってしまった奴もいる… みんな生きてる人間の顔…
ちっとも変らない奴もいる… 初めて逢ったときの少女のまま…
「君は成長しなかったんじゃない… 何も失わなかっただけ…」
みんな求めるものが違うだけ… みんな生きてる人間の顔…
それにひきかえ この僕は…
いやいや気にすることはない… 僕は僕自身を生きればいい…
それとも自分を生きていないのかい? 自分を信じていないのか?…
そんな事でどうする(誰かが言った)… 自分自身以外 何もうしなうものとて無い…
たったひとつの所有物 たったひとりの伴侶じゃないか…
そいつを信ぜずしてどうする…
あるがままの自分… 自分以上の何物でもなく 自分以下の何物でもない…
あるがままの自身… それを生きればいい 簡単なこと…
何恥じることとてない… 自分を忘れることこそ恥じるべき!…
生きてる人間が僕に言う 生きてる人間の声で言う
「君はちっとも変らない…」
……
真夜中の街道 ひとり歩道の上…
ヘッドライトに照らされ 僕の影が家々の塀にうつっては消えてゆく…
やっぱり僕は存在している…
実体をもち光をさえぎって 影をつくっているのだ…◆PRESENCE(プレゼンス):居ること 在ること 存在 出席
Silvery(銀の月)
木枯らしすさぶ 夜道をひとり…
手はポケットに 襟は立て
背中丸めてトボトボと…
屋根瓦の波…
その波のひとつひとつに光は宿り
飛はねる 雫 鈴(りん)と鳴る…
……
角を曲って気がつけば
足元に無数のナイフがつきささる…
キラキラキラとつきささる…
一足踏み出すそのたびに
キラキラキラと飛び来たる…
キラキラキラと心臓に…
見あぐれば 銀の月…
まどいきて
私の今一番しなければならない事…
それは今一番私のしたい事…
私の今一番したい事は あなたたちの求める事ではなく
今一番私の心の求めるもの…
人間に一切の義務は無く
あるのはただ自分になりきる事…
自身と云う唯一つの所有物をかかえ
それを大切に大切に育てること…
(必要を満たすことにおいてのみ成長はあるだろう…)
己が運命をあるがままに生きる事…
それだけの事…
教えも倫理も道徳も
全て自身の内に持ちたいもの…
私の内においては私は絶対君主だ…
ちっぽけな国のちっぽけな王だ…
私が見て感じてはじめて私に世界は存在するのだ…
……
求めるところのものを求めるままに求めよ!…
愛するところのものを愛するままに求めよ!…
ただそれだけの事が
何故にこれほどむずかしいのか…
刹那
秒にも満たぬ この一刹那に
全ての世界が存在する…
宇宙の全てが内包される…
君も僕も
スーツもTシャツも
舗道も空も
都市も星も
ビルも森も
海も銀河も…
全てが内包されるのに 全てが遠い…
昼の月
あれがクヌギ あれはミズナラ
そしてあのたかいのはシラカシ…
静かだね…
あの川は 何万年もの間台地をけずりつづけて来た…
そしてここまでやって来た…
その削り残りの丘陵の上
今僕らはいる…
……
君の髪から頬へ そして僕へ
晩い春の風が過ぎる…
君は光る川を見つめ
僕は君を見ている…
今…
言葉にすれば 何かが 消えてしまいそうで…
この息の間に…
……
あれが君の育った街だね…
好きかい?…
僕も好きになれそうだ…
ここは小さい頃の遊び場だってね…
小さな君が泥んこになってるのが僕には見えるよ…
静かだね…
ほら 昼の月…
白い掌(て)
月影は木(こ)の間よりもれ
風は楓をそよがせる……
真夜中の庭は虫の声に充ち
火星は赤く中天にかかる……
…………
いないはずのおまえの声が俺を眠らせない……
俺の声は暗闇によどみ
部屋に迷い込んだ草雲雀
お前にとどきはしない……
お前は俺を苦しめる……
冷ややかな瞳で俺を殺すことも出来る……
俺を救うこともできる……
……俺を放してくれ
俺を愛してくれ!……
俺を……俺を……
俺のすべてはその手の中
お前の白い掌(て)の中だ……
…………
月光は庭に充ち
雀蛾は花をおとなう……
火星は妖しくまたたき
夜気は胸にしのび入る……
ヘリオトロープの想念
初夏の暮がた
夕暮れ時の風……
ヘリオトロープの屋並と薄墨の原っぱ
西空の残照と細い月のかげ……
天体としてのこの星と
その上の自分を感じる……
死よりも大きな
生よりも強い
何か……
原初へとつらなるもの
久遠へとつづくもの……
「時空」……
万物を創造し
万物を滅ぼし
変化しつづけるもの……
素粒子と空間と時との
終りなき漂泊
果てしなき流浪
天然自然の静かなる 舞踏……
その不思議を想う……
つかのまの現象としての私が
つかのま君を捉えようと
走っていることの不思議……
この星が
君を そして私を生んだ……
その不思議を想う……
この不思議を
「神」の一言でかたづけてしまいたくない……
わからぬならわからぬまま
死ぬまで不思議を抱きしめていたい……
神の名において
迷いと過ちから救われたくなどない……
私を救えるのは私だけだ……
それが出来ぬなら
私は迷いと過ちを抱きつづけた
愚か者の行きつく所をみきわめるだけだ……
…………
初夏の夕暮れ
こうもり達の乱舞……
帰り道
ヘリオトロープの想念……◆heliotrope:青紫色のムラサキ科の花 その色
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