note7
月闇
空虚(うつろ)
曠野(あらの)
ヒメジョオン
Toys
彷徨者
夜
楽園の泉
Nirvana
影
self portrait
客人(まろうど)
闇へ
忘れる
大水青
「あたま」と「こころ」
「あたま」と「こころ」 2
Progress
形骸
どうなんだ?
薄明――――――――――――――――――――――――――――――
月闇
真冬の暗き祭壇に
金星と
月と火星と天狼星(シリウス)と…
振り向けばからっぽの闇…
切っても血の出ない心…
……
(楕円の上 点線と双曲線…)
失うことばかり怖れて
結局なにひとつ手にしてはいない…
心はいつも眠り
時おり目醒めて生きるにすぎない…
……
千年の孤独…
借りものの時間(とき)…
ひとりぼっちの心は
自ら人を遠ざけて
淋しがる…
……
(閉ざされた内なる地獄 ただひとつ穿たれた窓…)
さりげなく流れた日々は
お前に出逢うまえ…
今はざらついた日が月が
俺の肌を擦り抜ける…
……
剥き出された裸の脚…
大柄な着衣のイヴよ…
失うまいとしていたのは
お前ではなく
お前への想い…
そうと気付けば気楽なものだ…
……
(二次元の空虚 Decadent…)
本の中 本の中…
答えを捜して徘徊(うろつき)まわる…
けれど答えはいつだって
石ころの中…
足元に転がってる…
いくら本を積みあげたって
天国までは届かない…
……
皮相なる歳月…
すっかり分かった気になって
言葉遊びを繰りかえし…
深刻ぶって考えこんで
「誠実」などと自惚れる…
愚昧を嗤(わら)い愚昧を怒るその愚昧…
他人(ひと)を嘲り罵りながら
愛してほしいと嘆くばかり…
鳴りやまぬ 脳中の鐘…
……
(素粒子 刹那 素領域…)
誰の裁きも怖れはしない…
怖れるのはただ
すべてを薙ぎ倒す時の見えない鎌…
星の天蓋 紫の地平…
沈黙が降りかかる…
……
飢えた狂気の深淵が
ぽっかりと口を開く…
狂気の救い 狂気の安息!…
対象の無い不安が胃の腑を掴み
月闇は皮膚に沁み入る…
肉体よ ちっぽけな魂よ…
この夜に 同化せよ!…
◆Decadent:退廃的な人
◆素領域:時空間の最小単位。物質に最小単位の素粒子が
有る様に、時空間にも最小単位が有るのでは、と言う理論
の中で考えられたもの。湯川秀樹提唱。(大体あってると思
うけど...)
空虚(うつろ)
どんな悲劇が起きようと
日常は相も変わらず続いて行く…
人は
食い 眠り 産み
そして何事かを惟(おも)い
何事かを為す…
一切は時の鎌の下
すべてを啖(くら)う死の餌食…
時間と物質
「お手軽」で薄っぺらな
玩具的浪費…
無際限の 輪転…
……
あわれな人形たちが
あらわれては消え
あらわれては消えてゆく…
街灯の光彩の下
浮んでは消え
浮んでは消えてゆく…
……
いつでも地獄が
果てのない空虚(うつろ)が
俺の中にある…
それは虚無を生み
冷笑を生む…
何者も手には応えず
何者も お前の肉体すら!俺をとどめない…
高慢なる傍観者…
灰を掴み
砂を噛む者…
抱きとめる何ものもなく
ひとり倒れゆく者…
己が空虚(うつろ)に
蝕まれゆく者!…
曠野(あらの)
繰りかえす季節の歯車は
恋人達の輪を断ち切ってゆく……
…………
俺の記憶は
お前の冷たい無関心の中に
とうに塗り込められてしまった……
けれどお前の記憶は
今もこうして俺をさいなむ……
お前はすべてのもにひそみながら
眠りかけた記憶を呼び醒まし
俺を苦しめてゆく……
恋の囚われびとは解き放たれた……
けれど背中を押されてまろびでた所は
一面の曠野……
俺は道を失い
毀(こぼ)たれた時の迷宮で 途方に暮れる……
蒼ざめた月が昇り
俺は痩せた影をひく……
(夜は 俺の頭上を蔽(おお)う 黒い翼だ……)
天の淵に狂う嵐は
俺のかすかな炎をさらい
お前の肖像を灰にする……
(今はもう 死に絶えてゆくこの夢を
この手で葬らなければ……)
流した涙の分だけ
俺は強くなれるだろうか?……
ヒメジョオン
線路沿いの道
午後6時の雨……
重い湿度が
あたりを包みこんでいる……
長い梅雨が
すべてを呑みこんでゆく……
お前の生きる東の街も
墨色に塗りこめられる……
俺が失くしものをした
石と鉄の森が
鈍色に沈む……
俺が
雨の中 末枯(すが)れる花のように
お前の中に朽ちてゆく……
時が 足場を失くしてゆく……
…………
東につづく鉄路
午後6時の雨……
蒼ざめた夕暮れは
すべてを塗りつぶす……
…………
土手のヒメジョオンが
白い亡女(もうじょ)の群れになる……
Toys
巨大な人類の
巨大な科学
巨大な玩具…
砂漠で転がし
海で泳がす…
そのたてる振動
そのたてる波
それも巨大…
……
ほら 呑まれてく…
彷徨者
自分を信じ
自分を疑い……
人を望み
人を疎(うと)み……
気がつけば
どこも昏(くら)い深間ばかり……
人を知らず
自分を知らず……
ただ空疎な観念を振りまわしては
人を傷つけ
自らも傷つく……
何処を手さぐりしてみても
俺の愛するものも
俺を愛するものも
いはしない……
…………
彷徨者(さまようもの)・……
妄想の曠野(あらの)に ひざをつけ……
夜
夕闇は 夏草の間から吐きだされてくる……
無秩序な昼は 秩序なる夜に染めあげられてゆく……
雨にたたかれたアスファルトは乾き
月は雲をはらってゆく……
恋人達はそぞろ歩み
孤独者は本に目をおとす……
すべての行為は語りはじめ
すべての惟(おも)いは眼を閉じる……
(Physis
Psyche
Kalpa
Tao......)
時の淵瀬は渾(すべ)てを呑み
ありふれた夜に溶けてゆく……
◆Physis:ピュシス 自然 ギリシャ語
◆Psyche:プシューケー 魂 ギリシャ語
◆Kalpa:カルパ 劫(こう) 非常に長い時間 サンスクリット語
◆Tao:タオ 道(どう) 道教の哲理
楽園の泉
転がる石
転がる骨……
水滴に封じられた肉塊
いがらっぽい青銅の沈黙……
瞑目の風
仄(ほの)示される指……
幽(かす)かなる暗(やみ)と
空白の絵巻……
…………
黄昏の湿度はあたりをこめ
楽園の泉は 頬をひたさず……
Nirvana
苦しみは 自身から生まれでる……
怒りも 憎悪も 嫌悪も 怖れも
自身から生じ 自身へと回帰する……
自身を阻むのも
束縛するのも
牢獄へと突き落とすのも
畢竟(ひっきょう) 自分だ……
…………
悠久……
砂を掃く風……
乾いた谷……
漂白(ただよ)う魂……
ひとり倒れ
ひとり立ち……
理解を知り
執着を去り……
逃れることなく
恐れることなく……
…………
私以外の何者も
私を損なうことはないのだ……
◆Nirvana:ニルヴァーナ(サンスクリット語)
涅槃 解脱 悟りの境地 楽園 等を表す
影
月光が流れる湖水を
黒い木立ちが
縦に幾つにも切り裂いている…
お前はそれらを背にして立ち
私に向かっている…
(森は
柔らかな牢獄…
お前は
残忍な
牢守…)
冷たい水のような光に浮ぶ
その輪郭のうちに
その唇は動くが
あたりは
太古の沈黙に
満ちたままだ…
(けれど
私には分かるのだ…
音を持たない
言葉の意味が…)
お前のおとす漆黒の影は
絡みつく髪のように
滅びざる死者との抱擁のように
冷たく
きつく
私を締めつけ 包み
何処(いづこ)へかと
私をひきずって行く…
(或いは
導いて行くのか…)
私の肩を染める血は
屍の堆積に立つ街を焼く
落日のように赤く…
私のひく影は
確かに
私のものではない…
self portrait
歪んだ鏡に映しだされる 己の顔……
自意識という地獄と
生きることの倦怠と苛立ちに嘖(さい)なまれ
「存在」という悪夢に怯えている……
すべてを軽蔑し
怖れ
沢山の言い訳で着膨れている……
……皮相なる魂……
ああ 人は
一生涯かけて
このひとつの魂を
救うことができるのか……
…………
此岸(しがん)への桎梏(しっこく)……
生産への果てのない渇望……
…………
流砂の高処(たかみ)を 戦慄もて登り行け……
◆此岸:こちらの岸 あちらの岸、詰り彼岸=涅槃 悟りの境地に対する
迷いと煩悩の世界=この世
◆桎梏:手枷(てかせ)と足枷(あしかせ)
客人(まろうど)
汽車を降りた瞬間から 強い海の匂いが鼻をついた…
歩いて行く歩道には砂が吹き溜まり
浜には 昼顔を纏った小舟が朽ち
汀には 波に弄ばれる魚の骸が 時折白い腹を見せていた…
…海まで逼る山の下 私は堤防上に 幾つもの暗いトンネルを抜けた…
乾いたクラクションに追われ ざらついたアスファルトを踏み
僅かの平地にしがみ付くような この小さな村まで来た…
…まだ東に傾く陽射しの中 私は旧道を抜け
菩提所に続く石段をのぼり 苔むした墓に詣った…
「成航院法精日助信士」…祖父の墓だ…
見下ろす屋根や松の上に海が光り
漁師である叔父と 叔母や従弟たちとが 私を迎えてくれた…
……
長い午後
私は自転車に乗り ひとり村をめぐった…
防波堤に立ち 岬にのぼり 風に吹かれた…
……
晩い五月の日が暮れかかり 戻る船たちに港がざわめく…
翳りゆく空気の中で 私はその遠い響きに身を委ねる…
けれど
今はもうひとりの客人(まろうど)にすぎない私は
やがて陸風が吹き この低い家並みが夜の中に沈む頃
また ホームに立つ…
天頂にかかる五日の月を
青鷺の影が過ぎって行った…
闇へ
服を捨て
靴を捨て
闇へ…
金を捨て
名前を捨て
闇へ…
本を捨て
言葉を捨て
闇へ…
飾りを捨て
装われたもの捨て
闇へ…
借りものの陽と蔭と
睡りを捨て
闇へ…
怠惰な飽食と
けちくさい安逸を捨て
闇へ…
……
無垢なる世界を 一体と成せ…
忘れる
ブラウン管の向こうに 活字の中に
難民の死を見る…
干潟の 川の 死を見る…
怒りを 焦りを おぼえる…
けれど 結局目前の用事が大事…
他人への期待ばかり…
何もしようとはせぬまま
鈍磨した日々の中に
出来事も 怒りも 焦りも 忘れてゆく…
やがて 忘れたことも 忘れる…
大水青
舗道におちる
白いしみ…
轢きつぶされた月…
「あたま」と「こころ」
あたまで戦争を否定しても
こころは戦争に熱狂する…
あたまで差別を厭ってみても
こころはやっぱり差別する…
「理性」
「感情」
ふたつはしょっちゅう争うが
勝利はいつでも感情の上…
理性は畢竟無力…
それが俺を苦しめる…
「あたま」と「こころ」 2
理性は畢竟無力だけれど
それの従僕となってしまえば
生きてゆくのは楽なこと…
世間が味方でいてくれる…
感情の虜となって生きるのは
案外とむずかしい…
世間が大抵敵になる…
……
年とるごとに弱気がつのり
あたまはこころを おさえこむ…
progress
「発展発展」と騒いでいるが
それは自死へと向かう流れじゃないのか…
「進歩進歩」とはしゃいでいるが
それは本当は退歩じゃないのか…
……
見かけのいいものばかり多すぎる…
形骸
及ばぬ高処(たかみ)を望み
己が非力に唇噛み 吐息つく……
無為の嘆きに
濡れそぼつ……
…………
空虚な形骸が
地を這う……
どうなんだ?
「野生生物を守ろう!」などと言っているが
本当に連中の事をおもっているのか?…
すっかり連中の所有者のような気になって
ただ「失いたくない」そうおもっているだけなんじゃないのか?…
おためごかしの言葉を口にしているが
ただ寂しいおもいをしたくないだけなんじゃないのか?…
どうなんだ?…
薄明
日の没した後
己が頭上に拡がる天に見入る時
人は 過ぎ去った歳月の重さと 日々に歩み寄るその死を肌に感じ 慄然とする…
そして 影を失った我身を 抱き留める腕のあらんことを 願う…
……
流れて行く…
†・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・∽・†